昨今、毎年のように様々な自然災害が起こっていますよね。
台風しかり、豪雪しかり。
いずれにせよ生活に密に関係があるのが「停電しないよね?」問題。
停電したら暑さ寒さがしのげないので、命にかかわる重要なところなのですが
その生命線ともいえる電線のことを
よく知らない。
なんさま触ったらいかん!!ってことくらいは知ってますが、じゃどうやって繋いでるの?とかそんなことがさっぱり知らない。
だって電柱から電柱って結構な距離がある訳ですよ。
えいや!って投げるにしても絶対にうまくいきませんし、昔のタカスギのCMのように職人さんが熟練のワザでどうにかしているのか。
もう全く想像がつかないよ!ということで今回は熊本県ブライト認定企業の中でも
以前、鉄塔に昇らせてもらった白鷺電気工業さんにまたもや泣きつき、一体電線の工事って何をどうしているのか?という疑問を解消すべく現場に同行させてもらいました。
「いいけん八代に行って」とだけ伝えられたから来たのに
改めましてこんにちは。肥後ジャーナルの伊藤です。
今回やってきたのは八代市。くまもんポートの近くにおります。
さてここで本日、ドローンを使った電線の設置作業を行うから見てきて。と言われ来ているのですが
突然こんな重い装備を渡され困惑しています。
「ムトーさんから伊藤を昇らせてやってくれって頼まれたから!」
もうそんなつもりじゃなかったのに。本当はお断りしたかったけれども
こんな大勢の方が私が鉄塔に昇るフォローをすべく寒空の下、待っててくださっているんですよ。
白鷺電気工業の方々の人の良さに泣けてくる思いです。
そう、私はジャパニーズサラリーマン伊藤。
上に昇れと言われたら登るしかありません。
「お願いします!!」
しかし…
たっけえ…
このてっぺんまで登って、ドローンが運ぶ電線を接続するんだそう。じゃ最初からドローンだけ飛ばせばいいやん、人間が昇る必要ないやんって思いますよね。
でもドローンは接続まではできないのです。単に電線を運んでくれる係なので、最終的には必ず人の手、そして目視で確認しなきゃならないのです。
だから昇らなきゃなりません。
「大丈夫っす。コツさえつかめば結構簡単に昇れます」
「鉄塔にはどの程度、昇ったんですか?」
「さあ..数えたことないっす」
「泣かせた女は?」
「数知れず」
「わいさーし」
安全装着が終わったら、万が一足を踏み外した場合の対処方法や安全ロープの使い方を教わり
いよいよ昇っていきます。
こんな近くで鉄塔見たことなかったんで気が付かなかったんですが、きちんと足をのせられるような足場があるのでそれに沿って昇っていきます。
事前に「今回の現場はそんなに高い鉄塔じゃないので」とは聞いていたのですが
いや、たっけえよ?
社員さんが心配そうに見守る中
どうにか到着。
上から合図がきたらいよいよドローン出動。
「これ紐みたいに見えますが電線なんですか?」
「いや?紐よ」
最初から電線を持ち上げるには重すぎるので、最初は紐からスタート。この後何往復もしてやっと電線を持ち上げることができるのだそう。
鉄塔組の最初のミッションはこの紐の先に繋がれているピンクのリボンをキャッチすること。
「え?キャッチ無理でしょ。だって鉄塔の頂点で手を離さなきゃならないんでしょ」
「できるできる」
「ああやって紐が近寄ってくるけん」
「キャッチして」
「接続して」
「下におるもんが紐がこんがらがらんように引っ張って」
「隣の鉄塔にまでまた紐ば運ぶ」
「隣の鉄塔にも人間が待機しとるでしょ」
「はい」
「はいキャッチしたね」
「なんか紐が単独飛行を!」
「紐はもうお役御免。今度は今接続した紐を徐々に大きくして最後に電線を通すのです」
この気の遠くなるような作業を何往復もして、やっと我々がイメージする電線が接続されていくのです。大変なお仕事。
「大変でもなかですよ。ドローンがやっぱ便利」
ドローンが投入されるまでは
このようにヘリをチャーターして行っていたんだとか。
「チャーター代も高額ですし手続き大変ですし、雨降ったら終わりですからね。その点ドローンは便利です」
技術も日進月歩とはよく言ったものですが、まさかドローンがこのような使われ方をするなんて想像だにしてませんでした。
それにしても陽気な現場
見ている限り作業はとても過酷なもののように見えますが、それと相反するかのごとく
現場はとても明るく和やかな雰囲気なんですよ。
通常あんな高所にいたら緊張してしまうかと思うのですが、なぜこんなに穏やかな空気感なのか聞いてみました。
「聞いていいですか」
「ん?私の朝ごはん?いつものとおりフランス料理ですわよオホホ」
「それは何より。いつもこんなに明るい雰囲気なんですか?もっとピリピリしているかと思ってました」
「それはね、そんな言葉が最後の言葉にならないようにだよ」
自分自身も若い頃は鉄塔に昇っていたのでその過酷さ、そして厳しさが否が応でも分かっているんです。そして安全対策はしているもののそれは絶対ではないということも。
「だから考えるんです。もし俺が無線でワーワーわめいてそれが誰かの最後の言葉になったらいやだなって。あと委縮するでしょ。誰だって大声でわめかれたら」
足場が悪い高所で平常心をなくすと事故にも繋がりやすい。
それよりも明るく冗談でも言いあって、こまめにホウレンソウをした方が結果、安全対策にも効率にも繋がると判断しているのだそう。
「俺、案外考えとるでしょ!ブライトでしょ!」
普段から安全装置をつけて作業して高所作業している経験をもとに、地域のためにできるボランティアにも積極的に取り組んでいる白鷺電気工業。
年に一度、八代にある白鷺城や熊本城の清掃にも取り組んでいます。
「ブライトですねー」
「そうでしょー」
そのころ伊藤は
ここまで昇ってきました。
そして私はある重要なことを思い出してしまったのです。
それは
トイレ行きたい。
でもこんな高い場所で真剣にお仕事をしている人に、さっき昇ってきたばっかなのにもうおりたいです、なんて言い出せない。
「通常何分くらい昇っているんでしょうか」
「何分というか半日ですね。一回昇ったら。昼休憩の時におります」
なんということでしょう…
こうなったら鉄塔にマイホームを建設していた鳩の巣を見て気を紛らわせておくしかありません。
昇ってきただけで満身創痍で、何かしら体を動かすことすらできませんでしたが
そんな私をしり目にどんどん作業が行われていきます。もう尊敬でしかありません。
ああ向こう側の鉄塔にも誰かいるのが見える。皆同じように作業してるんでしょう。
誰も気が付かない、見もしない。そんな場所で業務を淡々とこなすその姿はまさにプロ。
そしておしっこしたい…
「おしっこですか?じゃおりましょう」
よかった。無事、大人の尊厳は守ることができました。
我々の生活の「当たり前」は誰かの仕事でできている
朝起きたら電気をつける、エアコン入れる、テレビのスイッチを入れる…
日常生活の中でいわゆる「当たり前」のこの行動も、電気がないと始まりません。
そしてその当たり前は誰かの仕事によって支えられている
縁の下の力持ちとはよくいったもので、重要なものほど普段目に見えないものなんですよね。とてもかっこいいお仕事なんだなとしっかりと認識させてもらいました。
取材ご協力いただいた白鷺電気工業の皆さま、本当にお世話になりました。
今後は電線を見るたびに
県民の生活を支えるという誇りを胸に、業務に取り組んでいる方々のおかげで熊本の「当たり前」は守られていると思いだします。
動画もあるのでぜひ見てね!
ライター紹介
ムトー
肥後ジャーナル編集長。 「人はなんで痩せなきゃいけないのかな」という思考にまで達したのでもうきっと痩せません。 気にしません。
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