熊本の誇る文化「球磨焼酎」。熊本で焼酎といえば、米焼酎。米焼酎といえば球磨焼酎です。その名の通り人吉・球磨地方に酒蔵を構えているため、7月の豪雨でも大きな被害を受けました。そこで、復興に向けて取り組む大和一酒造元にお話を聞いてきました。
原酒の8割が流出
人吉市にある大和一酒造元。温泉焼酎や牛乳焼酎などを手掛け、その味わい深さから人気の焼酎です。
今回お話を聞いたのは、大和一酒造元三代目の下田社長です。
はじめまして!早速ですが、豪雨で大きな被害を受けられた後、前向き復興に取り組まれ、瓶詰めや仕込みの再開など着実に前に進まれていますが、現状はいかがでしょうか。
確かに、瓶詰めや仕込みの再開は明るい話題として受け止めていただけているのですが、正直まだまだ復興には程遠い状況です。
えっ、そうなんですか?もう製造再開できる段階まで復興できて、あと一息なのかと思っていたのですが。
瓶詰めに関しては、原酒の8割がなくなってしまったので、残った2割をなんとか販売しなければと設備を優先的に復旧して再開したんです。
8割も…。
そこには昔から保存している古酒や、今後新しい焼酎を生み出すために作っていた試作品もありました。さらに、残った2割ももう底を尽きてしまいそうで…。
それはかなりキツイですね…。
仕込みも例年であれば9月に始めるのですが、今年は11月26日と遅いですし、主力の温泉焼酎と牛乳焼酎に絞っての生産になるので、少しずつ、もとに戻していかなければならないと思っています。
純粋に仕込み再開おめでとーーー!復興!!!!って気持ちで考えていました。すみません。
いえいえ。人吉全体をみても復興にはまだ時間がかかりますが、明るい話題は必要です。ただ復興はまだまだで、とにもかくにも最優先で取り組んで、他のところは手付かずでも必死に製造に取り組んで、少しでも在庫のない期間をなくさなければと取り組んできました。
実際に、事務所と店舗もこの有様でほとんど手付かずなんです。天井まで水が来ていたので、床も壁も全部はがしてしまいました。
建物がこの状態でも、まずは仕込み。そんな思いで、やっと再開されたんですね…。
先のことはまだ考えられない
今後の展望はどのように考えていますか?
……。水害以降、いままで、そんな先のことは、考えていなかったですね。現実的に考えると資金面をはじめ、課題が山積みで、遠くを見ると絶望しかなくて先が見れず、進めなくなってしまうんです。今後のことを考えられず5カ月が過ぎました。とにかく目の前のことを何とかするだけで精一杯で。
辛い質問をしてしまって、申し訳ないです…。
大丈夫ですよ。今回、クラウドファンディングに挑戦したこともあり、うちの焼酎をはじめて口にした方も多いのです。そこでリピーターになっていただいて、球磨焼酎の魅力を知ってもらいたいと思えたらと思います。
そうして、球磨焼酎が広がることで、人吉球磨地方に対する関心も高まりますもんね。
そうです。だからこそ、とにかく早く仕込んで、以前と変わらずお客様の口に合う焼酎を作ることで、恩返しができると思っています。自分が被災して初めて、人のために尽くしてくれる人の優しさを実感しました。当初は目の前が真っ暗になりましたが、前に進めたのはそういう皆様のおかげです。そのためにしっかり美味しい焼酎を早く作りたいと取り組んでいます。
また美味しい焼酎が提供できて、そこからが復興のスタートということですね。
せっかくなので、仕込んでいる焼酎を見ていってください!
ぜひ!
球磨焼酎の魅力は個性
ここで焼酎を仕込んでいます。ここも水没したので、仕込みができるまでの復旧が大変でした。
タンクに2,150Lって書かれてるんですけど、全部となると相当な量ですよね…。
これ、牛乳焼酎を仕込んでるんですけど、香りを嗅いでみてください!
うおおお!めっちゃ牛乳の甘い香りがします!!これが焼酎になるんですね。すごい!!!
球磨焼酎の魅力って、なんだと思いますか?
焼酎はもちろん、作っている人も個性的なんですよ。27蔵全てに個性があって、ひとくくりに球磨焼酎と言っても味わいがぜんぜん違うんです。
確かに、飲み比べてみると全然味が違いますよね。
今回の豪雨でも「球磨焼酎の蔵元を一つも絶やしてはならない」と全国からかなり応援いただいています。歴史ある球磨焼酎なので、その伝統を守り、評価されていかなければなりません。すべての蔵元にそれぞれの個性があり、そのすべてがあってこその球磨焼酎なんです。
なるほど…。単純に米焼酎ってだけじゃないんですね。
もちろん、米焼酎であることも条件のひとつですけどね!お米ってどんなおかずにも合うじゃないですか。なので米焼酎も色んな料理に合うんです。そういう魅力を知っていただきたいですね。
前を向いて、球磨焼酎を守る
ということで、大和一酒造元の下田社長に球磨焼酎の現状と魅力をお伺いしました。
球磨焼酎の蔵元は人吉・球磨地方に27蔵元あり、他にも多数の蔵元が大きな被害を受けましたが、前を向いて頑張っています。
大和一酒造では、現在仕込んでいる温泉焼酎と牛乳焼酎が3月の後半から出荷予定。常圧焼酎は年明けに仕込み2~3年後に出荷する予定だそうです。
まだまだ時間がかかりますが、一歩一歩前に向かって前進されています。
このご時世、なかなか外を飲み歩くこともできませんが、ぜひご自宅でも球磨焼酎を飲んで応援しましょう!
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