熊本の春を告げる野焼き。
阿蘇山が真っ黒になったら「ああ春なんだな」と感じるのが熊本県民あるあるなんですが、いくら恒例行事としても「いい加減煙い」「なんのためにやってんの」などの意見もあるものです。
何も考えず野焼きを受け入れておりましたが、野焼きが是なのか非なのか。
野焼き論争に終止符を打つべく、関係各所で話を聞いてきました!
向かった先は熊本県庁
まずは草千里の野焼きを担当している熊本県に話を伺いに行ってきました。
熊本県企画振興部地域・文化振興局 地域振興課 県北・天草班 担当:河津さん(なげえ)
「早速ですが、野焼きをする理由とは何なのでしょうか」
「結論から申し上げますと、九州全域の水、そして草原を守るためです」
なんということでしょう。
しょっぱなから非常に話が大きくなってきました。
「野焼きの歴史は非常に古く、日本書紀に野焼きのことが記載されていましたのでざっくりと考えても1300年ほど前から行われていた風習ですね」
「そんな前から。山を焼いて」
「山を焼くというよりも、山に自生している草を焼いているんですよ。焼かないと草原が守れないんで」
阿蘇では毎年3月に枯草を焼く「野焼き」を行っているのですが、焼くことによって新芽が生まれ草原として機能していくのです。もし野焼きをしないとなればあっという間に草原ではなく雑木林になってしまう。
そうなると地盤なども変わってきますので、もし大量に雨が降れば土砂崩れが懸念されてしまいます。
「阿蘇山は九州の水がめとも称されているので、ここでの水脈が崩れると熊本はもちろん、九州各県で影響が出てきます」
「阿蘇山すごい」
「阿蘇山すごいんです。そして昔の人もそのすごさを十分知っていたんですよ。だから脈々と野焼きは続けられています」
しかし焼くといってもそんな簡単な話ではありません。全国で見てもこの規模を野焼きするのは熊本県だけ。
「非常に広域ですし、危険も伴います。また牧野(ぼくや)管理の方々の高齢化も進んでいるのが現状ですね」
草千里岳でも野焼きする範囲を距離に置き換えると約500キロに及びます。これは直線にすると熊本~京都相当の距離。
秋吉台などでも野焼きは行われていますが、比にならない面積という訳です。
野焼きボランティアの方にも話を聞いてみた
2021年の野焼き予定日は3月6日。満を持して、現場である草千里に向かったものの…
ご覧ください。素人でも「これ今日ダメやろ」ってわかるお天気具合。
ぱっと見の感覚ですが100人は確実に超えてる気がします。野焼きボランティア。県外ナンバーも多かったです。
誰しもこの悪天候で「無理じゃ…」と思っていたのですが、
延期するっていう決断も多数のボランティアや関係者が都合あわせてきているので、簡単に決められることではありません。
目の前で幹部会議っぽいのが行われていたのですが、皆「どうしたもんか」と相当悩んでおられました。
ギリギリまで粘ったんですが、霧の水分で着火できなかったのと、強風注意報が発令されたのでまた翌週に延期が決定されました。
しかしそのままスゴスゴ帰るのも何だかなと思っていたところ、インタビューに答えてくださるボランティアさんを発見!
阿蘇グリーンストック桐原さん
「研修を受けられて今回参加を?」
「いえ、私は講習する側ですね(笑)。5回程度研修を行い、会員登録された方のみ現場に入ってもらっています。」
聞くと、ボランティアの割合は6割県内、残り4割は県外(主に福岡)の方なのだとか。夏に研修を行い、9月~12月中旬にかけて、他の箇所を焼かないための防火帯(輪地切り)を作ったりされるそう。もちろん平坦な場所ではない作業なので、非常に肉体的にも疲れるのですが、作業される方の多くは70歳超え。
それでも
阿蘇の自然を守りたい。
これを守ることが地元の誇り。
その想いで動いていらっしゃるんだとか。
ちなみにこれが火消し棒。これで炎を消すとか心もとなく感じますが
地面を叩いて火を消すのだとか。
全く想像つきませんが、それも本番の楽しみにし下山しました。
天候に左右されまくる
結局3月6日は濃霧と強風注意報が発令されたので、中止。
翌週は雨で中止。
翌々週も雨で中止。
4度目の正直!で、やっと行われました。
ご覧ください!非の打ちどころもない晴天!!前回は影も形も見えなかったのですが今日はくっきりと山も見えます。
草千里全体を野焼きにするのですが、そのまま火をつけたら、どこまでも燃え続けてしまいます。そこ輪で燃え広がりを抑える輪地切り(わちきり)を行う、と県庁で習ったのですが
この黒い線がそうなんですが。
あれ、なんかイメージと違う。火消し棒と同じく「これで本当に正解なのか」と問いたくなってくるビジュアル。
しかし私の不安などどこ吹く風。
各責任者から最終注意事項を伝えられ、いよいよ持ち場に動きます。
なんか皆が持ち場に向かう瞬間が、最高にかっこよかった。
野焼きの火入れって、オリンピックの聖火のように誰か代表者が点火して始まるのかと思っていたのですが、実際は三々五々それぞれの場所から点火されます。しかも外部に向かって「今から火を付けますよ」なんて合図もないので、テレっとしてたら
もう火がついてた。
しかも…
あれ?つけたそばから消していく感じ。
輪地切り近くは消火してたんですが、そのほかは、なんか想像以上に早く消えます。
そんなにガッツリ燃やさないんですね。ほんと表面を焼く程度。
風を読んで火を入れる。簡単に作業されているように見えますが、実際はとても繊細で責任重大なお仕事。一回のミスが命取りになるので、この係の方は野焼き前は寝れないほどの重圧なんだそう。突風拭いたら制御できない、これは素人には無理!!と、ひしひしと感じました。
ブワーー―っと燃え広がりますが
すぐに鎮火。でも火種は残っているので、ここで火消し棒が役に立つのです。
責任重大。
まとめ
知っていそうで知らなかった野焼きの世界。熊本のそして阿蘇の大事な自然を守るために。
ずっと阿蘇山が美しい自然を保っているのも、熊本の水が美味しいのも、元をたどればきっとこの野焼きがあってからこそ。なんですよね。
それを守るために、熊本県内はもちろん県外の方もたくさんボランティアとして参加されておられました。
しかしボランティアの方もどんどん高齢化が進んでいます。
肥後ジャーナルでも今年の夏こそはボランティア研修に参加し、実際に野焼きを体験したいなと思っております!
ライター紹介
ムトー
肥後ジャーナル編集長。 「人はなんで痩せなきゃいけないのかな」という思考にまで達したのでもうきっと痩せません。 気にしません。
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