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今だから話せる”寿屋” 懐かしいあのお店の話を創業者の寿崎肇さんに聞いてきた

ライター:山田 山田

みなさん、寿屋って覚えていますか?熊本でも県内各地にお店があって、熊本どころか九州最大の規模を誇っていたお店です。

2002年に倒産して、今はもうありませんが、思い入れの深い方も多いのでは無いでしょうか?

実際に寿屋の流れを組むお店や、以前寿屋だった店舗も他のお店になり県内各地に残されています。

普段の会話の中でも未だに「寿屋」とよく耳にします。そこで、なぜそんなに熊本県民の心に残っているのか気になり創業者の寿崎肇さんに話をきいてきました。


熊本県民の心に残り続ける寿屋

こんにちは、肥後ジャーナルの山田です。

私事ですが、実は私は県外の出身で、大学進学で熊本にやってきてもうすぐ12年というところ。なので、寿屋を知りません。確か母の故郷にお店があった気がしますが、よく覚えてないんです。

でも熊本だとサンリー閉店の知らせがあったときに編集部が大騒ぎになって寿屋時代の話題に花を咲かせていたり驚くばかり。なのに不思議と「どうして潰れたんですか?」と聞いてもみんな「急になくなったよね」って言うばかり。

それでなくとも、日常的に「寿屋」の名前を聞く機会って、まだまだ多いですよね。なんでそこまで記憶に残っているのか、どうしてなくなってしまったのか、創業者の寿崎肇さんに話を聞きに行ってきました。

ということで、今回は珍しく大真面目な肥後ジャーナルをお送り致します。

御歳93歳 寿屋の創業者・寿崎肇さん

お会いした場所は、寿崎育英財団の事務所。寿屋を経営されていた頃、昭和55年から今に至るまで、返済義務のない奨学金を学生に援助しているそうです。

この方が、寿屋の創業者・寿崎肇さん。御歳93歳。

山田

突然にも関わらず、お会いしていただきありがとうございます。

寿崎さん

いえいえ、私のような年寄りを訪ねていただきありがとうございます。大掃除中で散らかっていて申し訳ないです。

山田

いえいえ!そんなときに申し訳ないです!…取材にきておいて、失礼かもしれませんが、私は県外の出身で、寿屋を知りません。でも、今でも日常的に「寿屋」の名前が熊本県民の口から出ることって、非常に多いんです。でも、インターネットで調べたり、周りの人に聞いてもほとんど何もわからなくて、なんでこんなにも人の心に残っているのか知りたくてやってきました。

寿崎さん

そうですか、それは大変嬉しいことですね…。ただ私達は何も特別なことはしていないんです。ただお客様のことだけを考えて何をしたら喜んでもらえるのか、そういう思いで商売をしていました。

山田

それだけのことで、あそこまで成長できるものなんでしょうか。

寿崎さん

それが、商売の、経営の基本なんです。私は寿屋をはじめる前、国税局で働いていたものですから、商売は全くわかりませんでした。その時は私も稼ぐことが商売だと思っていたものです。ですが、商売について学ぶために「商業界」という雑誌のセミナーに参加したところ、「商売人の目的は儲けることではない」とおっしゃるのです。本当に何もわからないもんですから、そこで教えてもらったことにしっかり取り組んできただけなんですよ。

山田

お客様が喜ぶことって、具体的にどんなことをされていたんですか?

寿崎さん

やはり、欲しい物が手に入るというのが、一番喜ばれますね。最初は母と妻と始めた化粧品や婦人服が中心でしたが、要望があったら問屋さんに相談して仕入れたものでした。遠方からいらっしゃる常連さんがいれば、近くに出店してみたりと、どうすれば良いのかお客様に教えてもらう日々でした。他にも、寿屋オシャレ会という友の会を作って、会員さんのお誕生日には手紙を送っていました。手書きで一言ずつ添えていました。他のお店の売出しがあれば、そこのチラシと同じ値段で販売していたので、「寿屋で買えば安心だ」と思ってもらえたこともあるのかもしれません。

サンリー菊陽も以前は寿屋。覚えている方も多いのでは(寿屋40周年記念誌より)

山田

そういうお客さんとの距離の近さや、温かさは店舗が増えて、従業員が増えるとなかなか行き届かない気がします。

寿崎さん

私が社長を務めていた頃、最大で1万5千人の従業員がいましたが、私が何度も何度も繰り返し言うもんですから、よく理解してくれていたと思います。人が増えても一人のお客様と一人の従業員とで、しっかり会話してさまざまなご意見を聞かせていただいていました。

山田

そういう温かさや、優しさが嬉しくて、熊本の人たちの胸に今も残っているのかもしれませんね。

どうして寿屋は潰れたの?急になくなっていった真相は……?

山田

とても聞きにくいことですし、なかなかお話しにくい事かもしれませんが、それほどまでに拡大して、愛されていた寿屋がどうして急に業績不振で倒産してしまったのでしょうか。

寿崎さん

当時、私が経営を離れ10年の月日が経過していたものですから、現場を生で見ていたわけではありませんし、業績が悪化しているという話も耳には入っていませんでした。創業者の耳に入れる事ではないと、配慮してくれていたのでしょう。しかし、店舗の方と話している中で、落ち込みは感じていました。

山田

寿崎さんの目から見て、業績の悪化は何故起きたのだと思いますか?

寿崎さん

私が経営から退いて以降、4代目と社長が変わっていきました。その中で、銀行出身の方が社長に就任した時期もありましたから、経営の方針が変わっていったのでしょう。上場していましたので関わる人も増えていましたし、お客様との距離が離れてしまったのかもしれません。教育に対しても手が行き届かなくなっていたかのように感じます。
倒産する2,3年前に、このままではまずいと思い、引退した身の上でしたが、当時のジャスコ会長に「合併しませんか」と相談したことがあったんです。良い話だと承諾を得ましたので、それを銀行の頭取に話すと「寿屋の業績は良いのだから、必要ない」と言われたのです。数字の上での業績と目に映るものが大きくかけ離れていたのかもしれません。

山田

経営を離れ、傾いていく寿屋を見ながら歯がゆい思いをすることもあったのではないでしょうか。

寿崎さん

「私が経営を続けていたら」そう思い、申し訳なく思うこともありましたが、そればかりはどうしていたら良かったのと今になって言えることではございませんね。

今の時代、地域のお店が頑張って行くにはどうしたら?

山田

熊本にもずっと頑張っている地域のお店がたくさんあります。ですが便利な通信販売が増えて、お店で買物しなくなったり、チェーン店が増えて競争が激しくなったりしている気がします。私達が取材する中でも、お店の方からお悩みの声を聞くことが多いんです。今後、熊本のお店が生き残っていくにはどうしたらいいのでしょうか。

寿崎さん

私は毎年、アメリカへ行き、中小規模で上手く行っているお店を視察しているのですがやはり、トップの姿勢が大切です。自分の儲けばかり考えてはいけない。その地域でしっかりお客様の声を聞きやっていくことが大切なんです。お客様に喜んでいただければ、利益はあとから付いてきます。それをしっかりやることがAmazonにも対抗できる唯一の手段です。

山田

儲けを考えず…恐ろしくてなかなかできないですよね。

寿崎さん

今の時代は、物が豊か過ぎて、失敗を知らない方が多いように思います。私が幼い頃はお米を満足に食べることもできなかったものですから、大根に少量の米をふりかけて食べていました。だからこそ、失敗しても失うものがなかったのでしょうな。分からないことは素直に分からないと周囲に教えを来い、助けてもらって経営をしておりました。だからこそ、しっかり周りに恩返ししていかなければならないと。そして気付けば寿屋も大きくなっていたんです。

山田

いまでも奨学金で学生を支援しているのも、そういう恩返しの思いからですか。

寿崎さん

そうですなぁ。あれは「どうにかして皆さんにお返しできることはないか」と話していたときに、妻が提案してくれたんですよ。私自身、学費が払えず高校を中退しておりますので、そういう方を減らしていきたいという恩返しの一つの形でもありますな。

山田

ありがとうございます、とても貴重なお話ばかりでした。私は商売はしていませんが、それでも生かしていきたいと思えることばかりです。

寿崎さん

私も普段は老人ホームで暮らしているものですから、施設の中を歩くか、本を読んで学び、良かったと思うことを人に伝えることくらいしかやることがないのです。相談に乗って欲しいといわれたら、いつでも聞くので、またいらしてくださいね。

「お客様のために」それを率直にやってきたのが寿屋だった

ということで、年末の大掃除の真っ最中という迷惑甚だしいタイミングで、かつての寿屋のお話を聞いてきました。

「お客様のために」商売をしていたら、よく耳にする言葉で、普段なら「ありきたりのことだなあ」と思ってしまうのですが、寿崎さんとお話しているととても謙虚で、私のような若造にもものすごく丁寧にお話してくださり、このような姿勢で商売をされていたんだなぁ。と感じ、どこか温かい気持ちになれました。

熊本県民の心に今でもなお残る「寿屋」。そんなお店が熊本にあったのだということを今後もずっと覚えていたいなと思います。

みなさんも、ときどきでいいので、寿屋時代を思い出すと、懐かしい気持ちになれるかもしれません。

ライター紹介

山田

山田

肥後ジャーナル編集部の大きい人。前職は地域経済誌記者やマーケティングのディレクター。将来の夢はヒモになること。 特技は誤字脱字。朝起きるのが苦手です。

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